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【41】オリジナル小説「ほらふきあそべえ」
その男は、知れたホラ吹き男であった。
時は江戸時代、かの綱吉公が
「犬を保護するおw」
と言って「生類憐れみの令」を出した頃である。
漬物屋に丁稚奉公していたあそべえは、歳は12。現代で言えば小学校を卒業を前にして、「もうみんなと『ガンコちゃん』を教室のテレビで見ることもないんだなあ」とか言ってるころである。
あそべえは今年で奉公3年を数え、仕事にも慣れきってしまった。そんなあそべえは、今日も当然のようにホラを吹く。
「おやっさん、つけものぶちまけちゃいやした!!」
「あそこの松屋は、『裏メニューで』というと松ぼっくりを出してくれるらしいですぜ」
「『ぺりぃ』っちゅう異国のもんが、船を率いてきやした!お上は大慌てだそうで」
などなどそのホラの数は数知れず。そのたびに周りの人はてんやわんや、あよいしょよいしょの騒ぎである。
「またお前ホラを吹いたな!!!」
「すいやせん!!わしじゃなくて口が悪いんですわ、口がホラみたいな形してますから」
そんな会話は日常茶飯事、まったくへそで茶が沸く。
そんなある日おやっさんの妻が、あそべえに聞いたそうだ。
「なんであんたはそんな、呼吸をするようにホラを吹くんな?肺胞にホラがついとるんか?」
するとあそべえは答えた。
「なんでと言われやしても、なんかわしがホラを吹くとみんなわしを叩いたり笑ったりしてくれるけえ、それが嬉しんじゃ」
「ほーん」
妻にとってそれは意外な答えだった。てっきりこいつは「1日ごとにホラを吹かないければいけない回数が決まっていて、もしそれを達成できなければ人質がやられちゃう」みたいな問題を抱えているのかと妻は思っていた。最近蝶ネクタイのガキの推理アニメを見すぎたせいかもしれない。妻は言った。
「なるほどの。そんならほんまのホラを吹いてみたらどうやね。そっちの才能もあるかもしれへんで」
よくわからん方言を操る妻にメルカリで買ったあった本物のホラを渡されたあそべえは、その日から仕事が終わったあと、無我夢中でホラを練習した。
ブオォオオ~~~www
その大きい音は、毎日町中に響き渡る。
「お、今日もホラが鳴り始めたぞ。ほんならもう終わるか。ほいなら今日の仕事はしまいやーー!」
また明日ホラが鳴り始めたら、人は
「今日もよくがんばったな」
と思うのだろう。